令和5年、西暦2023年は、東大寺開山にあたって多大な貢献をなした東大寺初代別当、良弁僧正の1250年御遠忌にあたります。

聖武天皇の詔により、盧舎那大仏の造立ならびにそれを安置する大仏殿の建立がすすめられた天平年間（729〜794年）は、朝廷内の権力闘争や国内の各地で相次いだ戦乱、天然痘の流行などが、世情に大いなる不安と人心の乱れをもたらした時代です。そのような中にあって、 聖武天皇は国家の安泰と民衆の幸福をはかるべく仏教へと深く傾倒され、その強い想いが、東大寺の開山と日本独自の豊かな仏教芸術として具体的なかたちに結実し、それらは現代まで継承されています。

翻って、現代に生きる私たちをとりまく世情は、令和の時代とともに新型コロナウィルスの世界的な感染拡大がもたらした人類共通の不安に翻弄されています。さらに、その遠因と目される全地球的な気候変動は、すでに長期にわたって世界各地で様々な自然災害を引き起こし、人々に耐えがたい苦難と絶望感を与えてきました。そしてこの脅威は、その根本的な原因に私たち一人ひとりが真摯に向きあうことなくして、取り除くことが困難なものとなりつつあります。

この奉納プロジェクトは、1250年の時を経て、再び万物の生命と社会を脅かし、世情を不安に陥れつつある現下の状況について、私たちが深く考え、価値観を共有し、行動をおこす、そのためのささやかなきっかけを与えてくれる機会を用意させていただくものです。仏教の世界観とそれを表象する空間や芸術の有する力が、広く人心に訴求する場として、今なお、人々の深い信仰の対象であり続ける東大寺こそが、それに相応しいと考えています。

作 家